お知らせ
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作成日:2013/07/01
納税義務の適正な実現に向けて 重加算税について考える



関東信越税理士会の会報に寄稿した原稿を掲載します。

  納税義務の適正な実現にむけて             

一 問題の所在

 税理士法第一条には、税理士の使命として次のとおり規定されている。「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」。同様に税務行政の柱は、「適正公平な課税の実現」にあると聞いている。適正公平な課税には、本税は基より加算税の賦課決定も含まれると考える。重加算税賦課決定について考えてみたい。

 平成二十四年十一月関東信越国税局が公表した「平成二十三事務年度の法人税の実地調査の状況」では、不正発見割合が21.4%とある。ここ数年で見ても高い数字で推移している。何と調査を受けた法人の4〜5社に1社が不正を行っている計算である。この不景気な経済状況の中で驚きの数字である。多くの会員は認識との乖離を感じると思う。

 認識との乖離の原因は、二点考えらる。
@  税理士が重加算税賦課について熟知していないため反論できずに重加算税が賦課されているケース。

A  赤字や不正金額が少額のために重加算税は賦課されないが調査事績上、不正として処理しているケース。Aについては、公表されている調査状況に重加算税賦課割合が出ていれば判明するが、公表されていない。

二 制度の趣旨、法令、通達

 現行の法令等について確認しておきたい。
@  制度の趣旨
 重加算税の制度は、納税者が過少申告するにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。(最高裁判所平成十八年四月二十日判決より抜粋)

A  法令                
 国税通則法第六十八条第一項は、納税者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装して納税申告書を提出したときには、過少申告加算税に代えて重加算税を課す旨規定している。

B  通達等
 国税庁は、重加算税の賦課に関する事務運営指針を公表している。法人税における重加算税の賦課に関して「平成十二年七月三日付『法人税の取り扱いについて(事務運営指針)』」では、次に掲げる例を「仮装又は隠ぺい」に該当する場合として取り扱うこととしている。
イ いわゆる二重帳簿を作成していること。
ロ 次に掲げる事実があること。
 ・帳簿、原始記録、証憑書類、棚卸表その他決算に関係ある書類を、破棄又は隠匿していること
 ・帳簿の改ざん、帳簿書類への虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証憑書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っていること
 ・帳簿書類の作成又は帳簿書類への記載をせず、売上その他の収入の脱漏又は棚卸資産の除外をしていること

(以下紙面の都合上省略)

「隠ぺい又は仮装」の定義を行わずに、典型的な「隠ぺい又は仮装」行為を例示している点が特徴的である。

三 実務上の問題点

 領収証の保存がある売上計上もれは、重加算税賦課要件に当たるかを考えてみる。調査担当者が文理解釈に過度にこだわり一件の売上もれでも重加算税相当とした事例もある。私は、計上もれに不自然さがあるか否かが判断の重要のポイントと考える。例えば、小口の売上が集中的に計上もれとなっている場合、特定の売上先が計上もれの場合、売上計上もれ割合が高い、又は件数が多い場合等は、単純なミスとは言えず重加算税賦課要件に該当する可能性があると考える。

 売上計上もれに関しては、現金出納帳の残高がマイナスとして表れてくることが多い。マイナスは注意信号であるから、安易に役員借入を起こすことなく、まずは売上計上もれがないかを確認する作業を行う必要がある。

四 まとめ

 適正公平な重加算税賦課決定を行うため重要と考える点を次に挙げる。
@  重加算税賦課は、事実認定が全てである。立証責任は税務当局にある。調査担当者は、「隠ぺい又は仮装」に当たる事実について、納税者、税理士に十分な説明を行う必要がある。

A  税理士は、重加算税制度の趣旨及び事務運営指針の理解を深め、調査担当者の誤った判断に対して徹底した反論を行い、理解を得ることが重要である。

B  過度の文理解釈は、重加算税制度の趣旨に反する結果になる。法令通達の解釈を行う上で、たいへん参考になるものがある。法人税法基本通達の前文「法人税法基本通達の制定について」の後段の文章である。「通達の具体的運用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るよう努めたい。いやしくも、通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の趣旨や社会通念等に即しない解釈に陥ったりすることのないよう留意されたい。」調査担当者は、この考え方を基本とすべきである。

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